SNSを開くたびに、同年代のエンジニアの「個人開発がバズった」「年収が上がった」「こんなアプリ作った」という投稿が流れてくる。
それを見て、自分のスキルや進み具合と比べては落ち込む。
そして「他人は他人」とわかっているのに比べてしまう自分に、また落ち込む——。
駆け出しのエンジニアや1,2年目なら、一度は通る道ではないでしょうか。
結論から言えば、他人と比べて苦しくなるのは、あなたのメンタルが弱いからではありません。
むしろエンジニアという職種は、構造的に比較が起きやすい環境にあります。
そして、比較そのものをゼロにする必要もありません。
大切なのは、「大事にするべき比較」と「しないほうがいい比較」を見分けることです。
この記事では、その仕組みと、明日から使える具体的な付き合い方を整理します。
エンジニアが他人と比べて苦しくなるのは、構造的に当たり前
まず、自分を責めるのをやめましょう。
他人と比べてしまうのは、性格や根性の問題ではなく、人間に元から備わった心の働きです。
心理学には、これを説明する有名な理論があります。
人は、自分の能力や立ち位置を測りたいとき、客観的な物差しがないと、つい身近な他人と比べて自分を評価しようとします。比較は「自分が今どのあたりにいるのか」を知るための、自然な手段なのです。
【ミニ解説】社会的比較理論
心理学者レオン・フェスティンガーが1954年に提唱した理論です。「人は自分を評価するとき、明確な基準がないと他者と比較して判断する」という、人間の基本的な性質を説明しています。
そのうえで、エンジニアにはさらに比較が起きやすい事情があります。
それは、技術力が可視化されやすい職種だということです。
GitHubのコミット、Qiitaやブログの記事、個人開発の成果物、技術系SNSでの発信。
他人のアウトプットや実力が、これほど目に見える形で流れてくる仕事は多くありません。
物差しが常に目の前にあるのですから、比べてしまうのはむしろ自然なことなのです。
問題は、比べること自体ではありません。どんな比較をしているかのほうにあります。
見える化がされすぎている
なぜエンジニア界隈は、特に比較がつらいのか
比較が起きやすいだけでなく、いまの環境は「比べて落ち込みやすい」構造にもなっています。
その大きな原因が、技術系SNSの見え方です。
ここで大事な事実を一つ。SNSに流れてくる他のエンジニアの姿は、その人の「ハイライトだけを編集したもの」です。
「個人開発が伸びました」「年収が上がりました」「すごいアウトプット出しました」などなど
投稿されるのは、うまくいった瞬間ばかり。その裏にある、何時間もハマったバグ、何度も出した不採用通知、誰にも見せない没プロジェクトは、ほとんどカットされています。
一方、自分の方はというと…エラーで丸一日溶かした日も、レビューで指摘されて凹んだ瞬間も、全部ノーカットで知っています。つまり私たちは、自分の「ノーカット版」と、他人の「ハイライト編集版」を比べているのです。
これでは勝てるはずがありません。土俵そのものが不公平なので、落ち込むのは当然なのです。
この構造を知っておくだけで、タイムラインで誰かの成功を見て落ち込んだとき、「あ、また編集版と比べてるな」と一歩引いて捉えられるようになります。
大事にするべき比較と、しないほうがいい比較
ここがこの記事の核心です。
同じ「比較」でも、自分を成長させてくれる比較と、ただ消耗させるだけの比較があります。
心理学では、比べる方向によって2つのタイプに分けられます。
【ミニ解説】上方比較と下方比較
自分より優れていると感じる相手と比べることを「上方比較」、自分より下だと感じる相手と比べることを「下方比較」と呼びます。上方比較は成長の刺激にも劣等感にもなり、下方比較は安心にも油断にもつながる、とされています。
大切なのは、上方比較・下方比較のどちらが良い悪いではなく、その比較が自分を前に進めているか、それともただ削っているかという見分け方です。エンジニアの具体例で考えてみましょう。
大事にするべき比較
たとえば、強い先輩のプルリクエストを見て「このコードの書き方、きれいだな。真似してみよう」と思う比較。
あるいは、目標にしているエンジニアの技術記事を読んで「この学習の進め方を取り入れよう」と思う比較。
これらは、相手を自分の道しるべとして使えています。
相手の「結果」ではなく「方法」に目が向く比較は、次の行動につながり、あなたを前に進めてくれます。
比べたあとに学びが一つでも残るなら、その比較は大事にする価値があります。
よくある落ち込みパターンは「パイセンのコードがキレイだな、自分のコードクソすぎる、なんてダメなんだ…」と自己否定してしまうこと。
いったん自己否定を止めてみて、自分が良いと思ったものをただ取り入れようとしてみるといいかもです。
しないほうがいい比較
反対に、SNSで他人の年収報告やキラキラした成果物を眺めて「それに比べて自分は」とただ凹むだけの比較。
ここからは、学びも次の一手も生まれません。生まれるのは劣等感と自己否定だけです。
相手の「結果」だけを見て、自分の価値を下げる方向に働く比較は、手放していい比較です。
見分けるコツはシンプルで、「役に立つ」と思えるかどうか。
「参考にしよう」とか「なるほどそういう手があるのか」などとおもえず、
ただ気分が沈むだけなら、それは捨てていい比較です。
「こりゃあいい!真似しよう!」と思えるなら、それはしてもいい比較。
「はぁ、ワイより短い労働時間で倍の年収か…」とただ萎えるならしなくていい比較。
比較を成長に変える、エンジニアの具体的な習慣
では、消耗するだけの比較を、前に進む比較に変えるには、具体的にどうすればいいのか。エンジニアの日常で実践できる方法を挙げます。
1. 比べる相手を「他人」から「過去の自分」に移す
もっとも確実な方法が、比較対象を他人ではなく過去の自分にすることです。
半年前の自分が書いたコードを見返してみてください。
「うわ、こんな書き方してたのか」と思えたなら、それは確実に成長した証拠です。
読めるようになった技術、使えるようになったツール、解けるようになったエラー。
エンジニアは成長が記録に残りやすい職種なので、過去の自分との比較は特に効果的です。
これは他人のハイライトに振り回されず、純粋に自分の伸びだけを測れる、最も健全な比較です。
自分の中で、
・解決したことのあるエラーが増えた
・あるところまでは何も考えなくても書けるようになった
・typoしやすいところを意識できるようになった
とか、数値化されないけれど確実に溜まっている知識経験はあるはず。
GitHubのissue対応数とか可視化される部分は多いけど、多いからといってそれが自分の全てではないことも見落としがちなポイント。
2. 相手の「結果」ではなく「過程」を見る
すごいアウトプットを見て落ち込みそうになったら、「その結果」ではなく「そこに至った過程」を想像してみましょう。
バズった個人開発の裏には、公開していない大量の試行錯誤や、過去の失敗作があったはずです。
可能なら、その人の発信から学習法やインプットの仕方を盗む意識で見ると、比較は「妬み」から「学び」に変わります。
3. 落ち込むだけの情報源とは、物理的に距離を取る
精神論ではなく、仕組みで対処するのも立派な戦略です。
見るたびに必ず凹むアカウントはミュートする、疲れているときは技術系SNSを開かない、通知を切る。
比較の苦しさは、触れる情報量にかなり左右されます。
意志の力で耐えようとせず、環境のほうを整えてしまいましょう。
情報を断つことは、逃げではなく、自分の集中力を守るための合理的な判断です。
SNS切って、AIに「モチベあがるコーチングしながらハンズオンで開発教えて。客観的によくないところはしっかり指摘してね」って言った方がメンタル的にマシにプログラミングに向き合えるかもしれんね。
注意したいこと:頑張りすぎる前に休む
ここまで「比較との付き合い方」を書いてきましたが、最後にひとつだけ。
もし今、心労や脳の疲れがすでに限界に近いと感じているなら、考え方を工夫する前にまず休んでください。
IT・情報通信業はもともと精神的な負荷が大きい業種で、労働者健康安全機構の解析では、過労死等のうつ病など精神障害の労災認定件数は全産業で第8位、人口あたりでは第2位と報告されています。
エンジニアという仕事は、構造的に疲れがたまりやすいのです。
そして、真面目で責任感が強い人ほど「自分が休んだら迷惑がかかる」「もっと頑張らないと」と考え、休むのが上手ではありません。
でも、眠れない・気力が湧かない・何も楽しめないといった状態が続くなら、それは比較の問題ではなく、心と体が休息を求めているサインです。早めにしっかり休養をとることも、立派なリスク管理です。
スキルを磨くのと同じくらい、自分の心身をメンテナンスすることを大切にしてください。
極論やけど、心療内科はカジュアルに行くところやと思ってもいいで。
自覚なくてもいざ診てもらったら「休まなあきまへんで」と言われるケースもある。
参考:労働者健康安全機構「IT産業における精神障害・自殺事案の解析」
まとめ
他人と比べてしまう心の働きは、消すことはできません。
可視化されやすいエンジニアという職種なら、なおさらです。
でも、その比較を「自分を削るもの」から「自分を成長させるもの」に変えていくことはできます。
あなたが本当に比べるべき相手は、タイムラインの中の誰かではなく、半年前のあなた自身です。
よくある質問(FAQ)
- 他のエンジニアと比べてしまわないようにするには?
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比較を完全になくすのは難しく、無理に「比べない」と頑張るとかえって苦しくなります。それよりも、比べる相手を過去の自分に移したり、落ち込むだけのアカウントをミュートしたりと、比較の質を変えるアプローチのほうが現実的です。
- なぜエンジニアは特に他人と比べやすいのですか?
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技術力が可視化されやすい職種だからです。GitHubのコミット、技術記事、個人開発の成果物など、他人のアウトプットや実力が目に見える形で流れてきます。物差しが常に目の前にあるため、比較が起きやすくなります。
- SNSで他人の成果を見ると落ち込みます。どうすれば?
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SNSには他人の「ハイライト」だけが投稿されやすいと知っておくことが第一歩です。投稿の裏には見えない試行錯誤や失敗があります。それでも落ち込むなら、疲れているときはSNSを開かない、見て凹むアカウントはミュートするなど、環境面での対処が有効です。
- 比較は、全部やめたほうがいいのですか?
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いいえ。強い先輩のコードや学習法から学ぶような「大事にするべき比較」もあります。問題なのは、相手のいい結果だけを見てただ落ち込み、次の行動につながらない比較です。
- 良い比較と悪い比較は、どう見分ければいいですか?
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その比較のあとに「次にやること」が浮かぶかどうかが目安です。真似したいコードの書き方や試したい学習法など、具体的な行動が見つかるなら大事にしていい比較、何も浮かばずただ気分が沈むだけなら、手放していい比較だと考えてよいでしょう。